はじめてのえばんす



昨年からなんですけど平山順子 (Alto Sax)さんと共演させていただく度に、なにか面白い企画で演奏出来たらと話していました。そして、ちょっとずつスタンダードを書いた作曲家に焦点を当てたギグをやっていました。

今年に入って、次のデュオでの演奏では誰の特集をやろうかなと思っていたところ、以前Evansのことを話題にして話していたのを思い出してBill Evansの特集をやろうと提案させてもらいました。

いままで僕はどちらかと言えばエバンスの曲を積極的に演奏することを避けていました。殆どの有名曲は演奏した記憶はあるのですが、深く取り組んだことは無かったです。僕の中では、自分が昔ピアノを演奏していた頃のバッハ曲のような感じ。あの頃はバッハに、当時の自分のレベルでは拒絶されているようなイメージと自分にとってとても重要だからいつか取り組まなければならないかもというイメージを持っていました。ジャズを続けてきてからは同じイメージをエバンスに重ねていたのです。

ちょうど良い機会なので、徹底的に追求して見ようと思い取り組み始めました。今回の演奏までには音楽的、技術的に殆ど間に合ってはいないのですが、ははじめて取り組んだ印象をかんたんに記録しておきたいと思います。

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僕はジャズピアニストでは無いので、彼がどれだけジャズピアノにとって重要かは認識しながらも、そこまで彼の立ち位置について考えたことも無かったです。

ビルエバンスは1929年8月生まれ。周辺のピアニストと比較すると、アートテイタムより19歳、セロニアスモンクより11歳、レニトリスターノとジョージシアリングより10歳、バドパウエルとオスカーピーターソンより4歳、年下です。そして、ハービーハンコックより10歳、チックコリアより11歳、キースジャレットより15歳、年上です。ふう~。

共演者と比較すると、ジョージラッセルより6歳、マイルスデイビス、ジョンコルトレーンより3歳、スタンゲッツより2歳、キャノンボールアダレイより1歳、年下です。そして、ジムホールより1歳、ポールモチアンより2歳、ポールチェンバースより6歳、スコットラファロ、チャックイスラエルより7歳、ジャックディジョネットより13歳、エディゴメス、マーティモレルより15歳、ジョーラバーベラより19歳、マークジョンソンより24歳、年上です。(笑)

誰の影響を受けたとか誰に影響を与えたとかは伝記やインタビューに数多く残っていますし、その上で年齢をこんな感じで比較すると僕には状況がとてもわかりやすかったです。

ピアノ、ベース、ドラムによるピアノトリオとしては最初期の人ですし、トリオのメンバーを捜すのにとても苦労していたのが印象に残りました。初期にラファロを得てそして失ったことも大きいのでしょう。

音源に成っているのはずっと演奏していてもある時点の記録なのですから僕は勝手に想像していたのですが、メンバーの在籍時期などがイメージと違っていました。ベースは圧倒的にエディゴメスが長かった。そしてラファロやマークジョンソンの時期はとても短い!これはラファロ、エバンス本人が亡くなってしまったためなのですが、とても残念です。

モチアンが最近振り返っている話で、エバンス、モチアンとラファロのトリオでマイルスとのレコーディングセッションが決まっていたようですね。これがもし行われていたとしたら、60年代のマイルスの進み方すなわちジャズの歴史も変わっていたと思います。

ビルエバンス本人のパーソナリティそして彼の作曲についてもイメージとはかなり異なっていました。

彼のピアノスタイルはその後のジャズピアノのスタイルを変えてしまったほど革新的なものなのかもしれませんが、一度作り上げたスタイルを大きく変えるタイプのミュージシャンでは無いようです。最近発売された「ビル・エヴァンス ミュージカル・バイオグラフィー」という研究書では同じタイプとしてマッコイタイナーが挙げられていましたが、確かに近いかもしれません。

当時ポストモダン化しつつあるジャズの中で、印象派クラシックを中心とした和声感覚とクラシックのテクニックを持ったピアニストが現れるのは必然だったのかもしれません。「Letter From Evans」でのインタビューにもありますがキースジャレットはそこまで彼の影響を受けていないと主張しています。そしてジョーザヴィヌルもヨーロッパにいた頃エバンスを聴いたことが無かったそうです。しかしある種同じタイプのサウンドの傾向には向かっていたと思います。

そういった歴史の必然の革新を除いて考えると、彼はかなり保守的というか自分の内側に向かっていくタイプだったような気がします。事実60年代のフリージャズ全盛期にそういった音楽に向かっていくことも有りませんでしたし、セシルテイラーを始め多くのミュージシャンからバッシングを受けさらに内側に向かっていったのかもしれません。即興演奏というものに対する考え方も、キースジャレットやポールブレイとは真反対な気がします。

彼の作曲も改めて詳しく考えてみました。彼独特のスタイルが現れていて、そしてその後のジャズにも大きな影響を与えています。僕が前に持っていたイメージと違った点は、わかりやすい作曲スタイルの変遷といったものが無かったことです。モダンジャズに於いてかなり重要な彼の作品ということですが、マイルスやコルトレーンのようにわかりやすい変遷(モーダルな進化など)が有ったり、ショーターやザヴィヌルのように自分の特異なシステムがもともと備わっているようなタイプでは無いような気がします。

特に和声的には時期的に変わっていったとかいうような気があまりしないですね。Very EarlyやTurn Out Starsのようにドミナントの力が強いタイプとか、Time RememberedやRe Person I Knewなど印象派の色彩を重視しているようなタイプなど大きく分けることもできますが、それらの曲が段階的に変わってきているとかそういった感じでもなく、初期から後期までいろんな時期にいろんなタイプの曲が出てきます。コーダルからモーダルへ進化とかそういった感じではないです。マイルスのように自分のレパートリーに取り入れるスタンダード曲がオリジナル曲の進化とわかりやすく連動している感じもなさそうです。

そしてその中間のタイプといった感じの曲目も殆ど見あたりませんね。そう考えるとNardisとBlue In Greenはかなり特殊です。この2曲はもともとマイルス作曲とクレジットされていて、最近の研究ではほぼエバンスが自力で書き上げたモノとされています。ただ今回の僕のアナライズしたイメージだとなにかマイルスの影響がありそうです。マイルスのサジェスチョンが加えられた可能性もありますし、逆にこういった60年代からマイルス、ショーター、ハービーなどが歴史を作っていくタイプの曲はもともとエバンスのアイディアでも有って、ただ影響を与えた後自分自身はそれを使わなかっただけという可能性もあります。

伝記などを読むと分かると思うのですがヘロイン、晩年のコカインの影響も壮絶ですし、元嫁や兄の自殺など暗い影もあります。しかし彼の曲には自分の知人の名前を使っているモノが多いのがとても親しみを感じます。

あと意外とローズなど電気楽器の使用が多いのがビックリしました。嫌いだと公言してたみたいですけどね。あと使い方が特殊です。1曲の中でアコースティックピアノと使い分けたりしているのは、他の人はあまりやっていないかなと思いました。

あと彼のレパートリーのスタンダードですが、彼はかなり練ってリハーモナイズしてから取り上げています。これが特徴かな。僕はエバンスのエッセンスを継いでいるのはピアニストと言うよりはポールモチアンと演奏しているギターリスト達だと思っています。実際、採譜してみたらフリゼールはエバンスのリハーモナイズをかなり研究しているようです。

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まだまだ音源も聴き足りないですし、採譜とアナライズも中途半端です。そして実際の演奏の方は全然まだ取り組み不足ですが、チャレンジングなSaxとのデュオも、平山さんのすばらしい演奏のおかげで無事終了しました。まだまだエバンス特集は続けて行きたいですね。

今回は短い当日リハのみだったため多めに曲を用意して当日選曲しました。用意したのは

Blue In Green
Funkarello
Loose Bloose
Peri's Scope
Re Person I Knew
Time Remembered
Turn Out The Stars
Very Early
Waltz For Debby
Nardis
Israel
My Foolish Heart
You Must Believe In Spring
All Blues
So What
My Romance
Detour Ahead

の中から

1st
All Blues
Blue In Green
My Romance
Time Remembered
Waltz For Debby

2nd
Nardis
Very Early
So What
Turn Out The Stars
My Foolish Heart

を演奏しました。用意したモノ以外にも数多くの名曲があり、彼のレパートリーのスタンダードもいっぱいあります。是非またチャレンジしたいです。

投稿日時: 日 - 2 月 21, 2010 at 05:22 午後