Tonal Harmony by Kostka and Payne(以下T.H.)に影響をうけて、その方法論を生かしてA.G.V.L.の追加的教材を考えてみた。 和声の基本的なところを除いて、T.H.ではVoice Leadingの技法について述べてある。日本語の和声法の書籍でしか学ぶことのなかった私は、T.H. の独自の解釈に衝撃を受けた。 それはVoice Leadingでの声部の移動についての機械的な処理の仕方の解説についてである。次のコードが決まっている時には、そのコードへのVoice Leadingは機械的にいくつかの選択肢に絞られる。 (それはもちろんVoice Leadingというものがそれぞれの声部のスムーズな変化を目指しているため)重要なのはその後、和声の規則に乗っ取っていくつかの制限が加えられ次のVoicingが決定するということだ。 あらゆる西洋音楽の教科書に載っているあらゆる禁則というものがこれに当たる。実はこれらの禁則はすべて、Dominant Motion つまりルートの強進行と内声のトライトーンの解決という原理を阻害してはならないという西洋音楽の歴史の流れにのっとった禁則である。 もちろんCadencesのパターンなどもこれにあたる。
しかしA.G.V.L.はすべてのスムーズなVoice Leadingのパターンを列挙するという意味合いの本なので、これにT.H.における和声的禁則を加えるというのは、すべてのパターンの中から、西洋音楽の歴史の中で用いられるようなパターンを抽出しているだけにすぎない。 私の個人的見解ではこのようなパターンを学ぶのには、歴史上の優れた作曲家とくにBACHの実際の曲そのものを取り上げたほうが有効である。和声的禁則というものは音楽の歴史上の結果論でしかないからである。
私が発見したT.H.の方法論を生かしたものというのは、やはりT.H. の独自の解釈であるVoice Leadingの機械的処理の方法をもとにした考え方である。
T.H(Fourth Edition)のP93にこのような記述がある
A third method, although not as smooth as the first two, is useful for changing between close and open structures. Here we again keep in the same voice the tone that is common to both chords, whereas the voice that has the 3rd in the first chord leaps to provide the 3rd of the second chord. the remaining voice moves by step.
この技法に注目する。まずこれは、4声の最低音にルートをもつVoicingどうしによるコードが4度または5度上がる(または降りる)ときの技法である。これらは4声のものであるが最低音がルート進行のため、このルートを取り除いて考えることでA.G.V.L.の3声のTriadのところに書かれているものと同じあつかいができる。 この記述は三つめの技法なのだが、これ意外の一つ目のものはA.G.V.L.でいうところのTriadのCycle4または5におけるVoice Leadingとまったく同じものだし、二つ目のものは上の3声がすべて移動するやり方なのでここでは述べない。
解釈すれば
これはClose Voicing とOpen Voicingを入れ替えるときの技法である。
したがって一つ目のもの(TriadのCycle4 or 5)よりはスムーズではない。
まず二つのコードの共通音(一つしかない)はそのままキープ。
もとのコードの3度は次のコードの3度に移動。
のこりの1音はスケ-ルにそって1ステップだけ移動して次のコードのコードトーンに移動。
という動作になる。以下この技法をStructure Exchange(S.E.)と記述する。ここでまずは4度上がる(5度さがる)場合のみに限定して(Cycle4)実際に考察していこう。 ここでの例はScaleがC majorでの最初の二つであるCからFでの場合を考える。組み合わせはCloseとOpenのそれぞれのRoot Inversion(以下Root)、1st Inversion(以下1st Inv)、2nd Inversion(以下2nd Inv)で6通りである。
この中で、Close Rootはこの技法を用いてもOpen Triadにならない、または声部がだぶる。Open 2nd Invはさらに声部が広がってしまい、Close Triadにならない。この2つの事例ではStructure Exchangeは効果がない。また
・Close 1st Inv Open 1st Inv
・Close 2nd Inv Open Root
・Open Root Close 2nd Inv
・Open 1st Inv Close 1st Inv
となることも分かる。
Structure Exchangeを用いて、A.G.V.L.における新しいパターンを作ってみよう。Cycle4 C major Scaleに限定して、CloseとOpenどちらも含むものをとする。
まずCloseとOpenが毎回入れ代わるものを考える。つまり毎回S.E.を用いてVoice Leadingするということになる。最初のコードであるCのCloseとOpenから始まる2種類あるが、前の章で見たようにClose RootにはS.Eが効果がないため不可能。よってRoot Poitionから始まるものは
という組み合わせのみである。これは2段目から解釈すれば、2nd Invから始まるものとなる。次に1st Invから始まる可能性を考えると
という組み合わせになる。これにはClose,Openの両方から始まる可能性が含まれる。ここまでででてこないコードはClose rootとOpen 2nd InvであるがCloseとOpenが毎回入れ代わるものではこれらを用いることは不可能である。 (S.E.が使用できないため)よって上記の二つのチャートが考えられるすべてのパターンである。
*ここで用いられているとの記号は、 S.E.が用いられるときに『もとのコードの3度は次のコードの3度に移動』という規則によって、離れたコードトーン(一つ飛ばした次のコードトーン)に声部が移動している時に用いている。 それ意外の記号はA.G.V.L.本文と同じ意味合いで用いてある。
つぎにCloseとOpenが2つおきに入れ代わる組み合わせについて考える。最初のコードの可能性は6通り。
・Close Root Close 2nd Inv Open Root Open 2nd Inv となりここでS.E.が使用不可となる。
・Close 1st Inv Close Root となりここでS.E.が使用不可となる。
・Close 2nd Inv からスタートするとサイクルが完成する。下のチャート参照。
・Open Root Open 2nd Inv となりここでS.E.が使用不可となる。
・Open 1st Inv からスタートするとサイクルが完成する。下のチャート参照。(3段目からスタートしたもの)
・Open 2nd Inv Open 1st Inv Close 1st Inv Close Root となりここでS.E.が使用不可となる。
よってこのチャートのパターンのみが可能である。
CloseとOpenが毎回入れ代わるものの場合とおなじように、このチャートでもClose RootとOpen 2nd Invのコードは出てこないことは興味深い。
つぎにCloseとOpenが3つおきに入れ代わる組み合わせについて考える。最初のコードの可能性は6通り
・Close Root Close 2nd Inv Close 1st Inv Open 1st Inv Open Root Open 2nd Inv となりここでS.E.が使用不可となる。
・Close 1st Inv からスタートするとサイクルが完成する。下のチャート参照。(4段目からスタートしたもの)
・Close 2nd Inv Close 1st Inv Close Root となりここでS.E.が使用不可となる。
・Open Root からスタートするとサイクルが完成する。下のチャート参照。
・Open 1st Inv Open Root Open 2nd Inv となりここでS.E.が使用不可となる。
・Open 2nd Inv Open 1st Inv Open Root Close 2nd Inv Close 1st Inv Close Root となりここでS.E.が使用不可となる。
よってこのチャートのパターンのみが可能である。
ここでようやくすべてのInversionのコードが出そろうことになる。
1 Goodrick, Mick. Almanac of Guitar Voice Leading Vol 1.. Liquid Harmony Publications, 2001,
2 Kostka, Stefan : Payne, Dorothy. Tonal Harmony. 4th ed., Mcgraw-Hill College, 2000, p.93